• “発達障がい児と共に生きる”ということ…

    赤い屋根のおうち

  • 「ひとりじゃないよ VOL.2」
     よりあなたへ贈るお話です。
     

    ”赤い屋根のおうち”
     

    私には、とてもとても欲しいものがありました。


    「家」です。誰でも大人になったら家を持つものと思っていました。欲しかったのは赤い屋根のきれいなおうち。小さいころから欲しかった家です。庭にはハーブを育てよう。友人を招いて、ベランダで軽く食事をとってもいいな…。周りの人たちとも話をしましたが、みんなそれぞれに欲しい家があって、同じように購入の申し込みをすることになりました。

    そして私も家を手に入れました。


    赤い屋根のおうちです!思った通りの家だと思いました。…ところがなんだかおかしいのです。住んでみたのですが、ドアが思うように開きません。内装も家具も注文と違いました。庭にはハーブを育てるはずだったのに、種を撒いてもちっとも育たないのです。ベランダはあると思っていたのに、よく見たらありませんでした…。おかしいわ。どうして?みんなもそうなの?これじゃ友だちを招いて庭でランチをとることもできないじゃない。ひどいわ…。

    私は近所の家を見て回りました。


    ところがどうでしょう…。近所の家々は、みんな注文通りの家だったようです。住人はみんな、小さな不満はありながらも、おおよそ満足して住んでいるようでした。「おかしいわ、どうして、どうしてうちだけ?」

     

     道に立って、あらためて自分の買った家を見てみました。あれ…?赤い屋根だと思っていたのに、よく見たら、赤くないんじゃないの…?どういうことなの、これは。注文とは違う家だったの…?この家じゃ、小さいころから私が想像してきたような、楽しい生活が送れないじゃない。どうして?どうして私にだけこんなことが起こるの…?

    待って。私の努力が足りないせいかもしれない。


    私は頑張ってみることにしました。多分、少し手を入れれば、願っていたような家になるのかもしれない。まず、塗装をし直そう。ペンキを買ってきて屋根の色を赤く塗りなおしました。欲しかったベランダも取り付けてもらいました。庭の土をごっそり入れ替えて、ハーブに合った土になるように改良しました。

     

     「そこまでしなくてもいいんじゃないの?あなたにはお似合いの家じゃないの」そう言ってくる他人もいましたが、私は耳を貸しませんでした。なにが「お似合いの家」よ…!バカにしないで。

     

     

     

    何年もかけて私は、


    どんどん家に手を加えていきました。私の欲しかったあの家に近づけよう!とにかくそのために努力を続けました。

      
     

     すると、ああ、なんてことでしょう。数年たつうちに、私の家は内部から傷み始めました。どうやら塗装や庭の土や、元々なかったベランダの取り付けが、家そのものに合わなかったようです。手を入れる前は、確かにドアは開きにくかったし、屋根の色は違っていたけれど、それでもちゃんと住むことができました。なのに、今は住むことすら難しくなってしまったのです。私は涙が出てきました。いったい私は、何をやってしまったの?赤い屋根のおうちに近づけたいと思っただけなのに、何がいけなかったの…?

    家を買ってから何年も経過していました。


    私は近所を改めて歩いてみました。すると、前には気がつかなかった、通りの奥にある家に気がつきました。聞けばその家も、注文とは違った家だったのだそうです。ですがその家の人は、なぜか幸せそうに見えました。家は改良もしておらず、こじんまりとしていましたが、温かな家族の団らんを包んでいました。私にはその家の灯りがとても明るく見え、胸にしみました…。

    私は自分の家へ戻ってみました。


    そして改めて家を外から眺めてみました。私が後から塗った屋根の色は落ちてしまい、やっぱり私が願ったのとは違う色に戻っていました。

    でもね、よく考えたら、この色も悪くないよね…。この家には合ってるかもしれない。

    私は涙をふいて、この家が息を吹き返すことだけを考えよう、と決意しました。

     

     それから、その家に合わなかったものはすべて取り外し、家具を大切に磨いたり、風通しを良くして、日々を過ごすようにしてみました。すると、傷みかけていた家が次第に元に戻っていきました。それでも私は、私が欲しかったあの赤い屋根の家への憧れを、簡単に捨て去ることはできませんでした。今の家の手入れをしながらも、欲しかった家のことが何度も何度も、頭をよぎりました。他の人は注文通りの家で満足そうに暮らしているのに…この家は色々とクセがあって、手入れをするのも他の家よりずっとずっと難しいのに。そのことを考えるとどうしても、涙がこぼれるのを止められませんでした。

    でも、


    今の家での暮らしを大切にするようになって、何年もたったころ、ふと、赤い屋根の家のことを思い出さなくなった自分に気がつきました。そして、しみじみと思ったのです。「ああ、私は、この家が好き…」

     

     

     私が小さい頃から欲しかった家じゃないけれど、それでもこの家が、好き。本当はきっと、もっと前から好きだったのに、私は赤い屋根の家のことがどうしても忘れられなくて、今の家のことをちゃんと見ることができなかったんだ…。

     

    でも、気がついたらこの家は、私の生活になくてはならないものになっていました。

    確かに他の家のようには見栄えも良くないし、手入れにも時間がかかる。でも私は、この家が好きなんです。壁紙も家具も、とっても独特だけれども、でもユニークで、他にはない個性的な家です。住んでいると、色んな発見があって、とても面白く、そして何よりこの家の中にいると私は、とても優しい気持ちになれるのです…。

     

     赤い屋根の家のことだけを考えていたころの私は、このユニークさに気づきませんでした。けれど今の私は、それに気がつく感性を持つことができたようです。そして私は、今の自分のほうがずっとずっと好きだと思えるのです。私は、この家と、そしてその中で共に年を重ねていくであろう自分の人生を、今は心から愛おしく思います…。

  • 私たちの考える障がい受容

    ハンドブック本文より抜粋
     
    (略)ここまでの記事で表現しきれなかったことがあります。それは「障がいの中身を十分理解し適切な対応方法を学ぶことで、子育てに手応えを感じられるようになれば親は子どもを受け入れることができる」と言い切れるほど、実は単純ではないということ。障がい受容はそれだけでは成立しない、と私たちは考えます。(略)
     
     
    続きは、倉敷子育てハンドブック「ひとりじゃないよ」vol.2
     
  • 著者紹介

    Kiyoko Ando
    安藤 希代子

    理事長
    このサイトの文章は私たちの法人が2015年7月20日に発行した「倉敷子育てハンドブックひとりじゃないよ Vol.2」の第2章の中から記事のひとつを抜粋したものです。
     
    「障がい児の保護者が、子どもの障がいを受容することについて」取り上げた第2章の最後に載せたこの物語は、障がい受容のたとえ話で有名な「オランダへようこそ」の発達障がい児バージョンのつもりで書きました。普通に産んだつもりの我が子に障がいがあった…第三者にはなかなか理解されにくい親の心情を、「家」に例えて表現してみたのです。
     
    「発達障がいとはどのような障がいで、どう対応したらうまくいくのか」…それさえわかれば、親は子どもを受け入れられる。そんな風に思われていることが多い気がします。ですが実際には、そんなに単純ではありません。「子どもの障がいを受容する」…これは親自身の人生に対する問いかけなのです。
     
    このサイトに載せた文章は、あくまで章の抜粋です。
    「私たちの考える障がい受容」の全体像は、ハンドブックをご購入になってお読みください。あなたがお子さんについて考えるヒントにしていただければ幸いです。
     
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    ペアレント・サポートすてっぷ」は、岡山県倉敷市で活動する「障がい児の保護者による保護者支援」の団体です。2014年11月NPO法人となりました。
    倉敷市の障がい児の保護者による保護者支援の会です。スタッフは「倉敷市障害児学級親の会」で過去に役員経験のある者たちの有志で構成されています。結成は2012年4月1日。2013年末には障がい児の子育てに必要な様々な情報を集約した冊子「倉敷子育てハンドブック ひとりじゃないよ」刊行しました。ほかに、「うさぎ茶屋」「出前茶話会」等、様々な保護者支援活動を展開しています。
  • ひとりじゃないよ VOL.2
     

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